20111227ユリイカ.jpg『鈴木先生』(漫画アクション連載から単行本化)で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞したマンガ家、武富健治さんを特集した今月号の『詩と批評ユリイカ』(青土社)。巻頭の安彦良和さん(『宇宙戦艦ヤマト』や『勇者ライディーン』の制作に参加したあと『アリオン』『ナムジ』などを描いた大御所)との対談で、

「一時期いわゆる写実的タッチを追求した時期もあったんです。写実的なタッチを追求する人って他にもいっぱいいましたが、彼らは揃いも揃ってどんどん色気のない淡々とした方向に写実を追求していったんですよね」「でも、三〇代になって、一〇代で活き活きと楽しくマンガを描いていた頃の絵柄に戻そうと思っていて、『鈴木先生』はその作業の一環でもありました」

と語っている部分など、武富さんの絵の背景にあるものがいくらか見えるようで興味深いです。あと、今回ぜひ読んでほしいのは今月号掲載の新作「雨月物語壱 白峯」。上田秋成の『雨月物語』をテーマにすること自体が目新しいといえば目新しいのですが、それより、登場する西行や崇徳上皇のセリフの切れ味、その基礎にある物語の読み込み。歴史をテーマにした近作で言えば、井上雄彦『バガボンド』(講談社)とはまた違った、緊張感を維持しながらの激しい展開。『雨月物語弐』がいまから楽しみでなりません。

もうひとつ、今月号から始まった連載、中村稔さんの「人生に関する断章」がすごくおもしろかった。今回は書について、作家・武田泰淳や詩人・中原中也の「書(書き文字)」に対する態度を、中村さんの実体験を交えながら分析、人間にとって「書(書き文字)」とは何かを探っていくもので、これも次回以降が楽しみです。
20111217ピョンヤン.jpg2012年1月号の文芸誌「すばる」に、作家の星野智幸さんが震災後の(ツイッターなどを含む)執筆について、こんなエッセイを書いていました。もうたくさんなのだ。言論が、現実から離陸し、現実を脅かさない領域で力関係を作り上げ、白熱していくことは。そのような言葉のあり方が原発事故の起こるこの社会を作った、という後悔が私から言葉を奪う。現実から離陸することなく、誰が何と言おうと自分の身体で現実と向き合い、自分の言葉を探るように書いてきた作家のひとり、それが先日『ピョンヤンの夏休み』(講談社)を発表した柳美里さんです。韓国籍を持つ「在日の作家」として、父親が生きた分裂前の朝鮮半島という「幻の祖国」を、2008年から4度にわたって訪問した記録が本書。軍事や外交の面から北朝鮮を研究した記事や書籍はピンからキリまでいろいろありますが、現実の存在としての北朝鮮、その空気や国民の息づかいまで伝わってくるような記録は、本書以外にいくつもないような気がします。

東日本大震災のあと、「現実を見よ」「冷静に対処を」という言葉がメディアやインターネットで乱舞していますが、そのうちのどれだけの人が、星野智幸さんの言うような「現実を脅かさない領域」ではないところから、言葉を吐いたでしょうか。本書に寄せて言えば、どれだけの人たちが、北朝鮮について「現実を脅かさない領域」ではないところから語ってきたでしょうか。ジャーナリズムやツイッター上の言葉(の多く)がいかに上滑りしているか、本書を読めば、よくわかると思います。

20111208被災地.jpg「数カ所の被災地を見てすべてをわかった気にならないよう、宮城と岩手の沿岸部を中心に、北は青森、南は千葉までをまわった」(p.143)という東北大学教授・五十嵐太郎さんのエッセイをまとめた『被災地を歩きながら考えたこと』(みすず書房)が発売されました。『新宗教と巨大建築』(ちくま学芸文庫)や『戦争と建築』(晶文社)でその独特な視点と博覧強記を披露した五十嵐教授が、書題の通り、東日本大震災の被災地を自らの足で歩き回り、建築の角度から考えたことを飾らぬ言葉で書き知るしています。「建築物とはこうあるべきだ」「防災のために建築はこう役立つべきだ」といった押しつけがましい主張は一切なく、建築が震災前までになしえたこと、なしえなかったことを(悲哀や怒り、驚きといった生の感情をにじませながらも)冷静に書き留めた文章に、東北への強い愛を感じてしまうエッセイ。(リンクに続く)

20111207遺体.jpg
担当者の事情により、長らく新刊情報をご提供できませんでした。心よりお詫び申し上げます。あらためて、本日より新刊紹介を再開させていただきます。なお、雑誌の新刊情報については短文投稿サイト「Twitter(ツイッター)」の各店舗アカウントから随時発信させていただいておりますので、そちらをご覧下さい。さて、今日ご紹介するのは石井光太『遺体』(新潮社)。オビに「遺体安置所をめぐる極限状態に迫る、壮絶なるルポルタージュ」と説明があります。死体と向き合ったときの、言葉では容易に表現できないような恐怖、悲哀、狂気、嫌悪、思考停止...は、人間の多くが「死」という現実から目を背けて生きていることの証し。本書『遺体』は、死体と向き合ったそうした多様な人間の姿や心を、いま手元にあるできるだけの言葉で写し取った本です。

「三月十一日以降、釜石のマチはどこまでも瓦礫がつみ重なる廃墟となり、ヘドロを被った死屍が累々と横たわっていた。民家に頭をつっこんで死んでいる女性、電信柱にしがみつきながら死後硬直している男性、尖った材が顔に突き刺さったまま仰向けになって転っている老人。風の強い日も、雪の降りつもる日も、遺体は何日間も静かに同じ場所でかたまったままだった。こうした被災地から一体ずつ拾い上げ、ダンプカーの荷台に載せては旧二中の安置所へ運んでいた人物がいる。松岡公浩、四十六歳だ。」

デリカシーのない表現だと思われるかもしれませんが、震災とは、津波とは、被災地とは、死とは、恐怖とは、こういう側面を持っているのだと思います。いまは読む気になれない、という方には無理におすすめしませんが、被災地に行かれたことがなくて、まだ地震と津波の実感がわかないという方は、せめて本書を一度読んでください。
  • あゆみBOOKS全店
    2011/12/12-12/18
  • 采配
    落合博満
    ダイヤモンド社
    本体1,500円+税
  • 人生がときめく片づけの魔法
    近藤麻理恵
    サンマーク出版
    本体1,400円+税
  • 大人の流儀(続)
    伊集院静
    講談社
    本体933円+税
  • 謎解きはディナーの後で2
    東川篤哉
    小学館
    本体1,500円+税
  • ジェノサイド
    高野和明
    角川書店
    本体1,800円+税
  • 動的平衡(2)
    福岡伸一
    木楽舎
    本体1,524円+税
  • 不動の絆
    戸塚啓
    角川書店
    本体1,400円+税
  • 小澤征爾さんと、
    音楽について話をする
    村上春樹/小澤征爾
    新潮社
    本体1,600円+税
  • スティーブ・ジョブス(1)
    ウォルター・アイザックソン
    講談社
    本体1,900円+税
  • 謎解きはディナーの後で
    東川篤哉
    小学館
    本体1,500円+税