宇津木妙子『宇津木魂』(文春文庫)

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(宇津木妙子著、文藝春秋、740円+税)「よしっ! よしっ! やったー! やったー!」。北京五輪・女子ソフトボール優勝決定戦。日本が悲願の金メダルを決めた瞬間、テレビ中継の解説をしていた女子ソフトボール前日本代表監督・宇津木妙子さんがこう絶叫し、嗚咽したのを覚えている人も多いのではないだろうか。金メダル宣言をしていた野球の「星野ジャパン」が不調の中、ほぼ同時期に試合が行われていた女子ソフトボール日本代表の快進撃は日を追うごとに注目を集めていった。深夜眠い目をこすりながら再放送を見た人も少なくないはずだ。かく言う書評子もその一人である。

3連投のエース・上野由岐子投手をはじめチームの奮闘に手に汗を握ったのはもちろんのこと、解説を務めた宇津木さんのコメントがまた痛快だった。「バランスが悪い」「今のは打たなくていい」など、ミスを手厳しく指摘し、凡退すると唸ったり「あー」と大きな溜め息をつく。冷静な解説とは言えず、それに拒否反応を起した人もいたようだが、試合の流れや選手の調子が悪いにもかかわらずむやみに褒めたり、盛り上げたりする実況・解説が増えているなか、厳しい目線で、かつ飾らず本音で話す解説には好感が持てた。

その宇津木さんが、今回の北京五輪と自らの「ソフトボール人生」を語ったのが本書『宇津木魂』である。

表紙カバーをめくったところに、「上野由岐子投手の所属チーム総監督であり、シドニーで銀メダル、アテネで銅メダルをもたらした前・日本代表監督が、『結果の出せる』指導哲学を全公開」とあった。確かに、チームのキャプテンとして、監督として、目標を達成するために何をし、選手とどう向き合っていったか、といった宇津木さんの実体験が記されている。「24時間ソフトボールのことを考えろ!」と怒鳴り、倒れる直前まで練習させる鬼監督ぶりと、それを可能にした選手に対するこまやかな心遣いや愛情。数々のエピソードを読むと、宇津木さんがトップアスリートを育てることができたのも宜なるかなと納得する。

しかし、読後の率直な感想を言えば、指導者というより、中高生の若い人たちにこそ読んでほしいという思いがした。フラフラになるまで練習させられたうえに、怒鳴られ、殴られ、日常生活の細かいことまで説教される。それでも、「監督のために勝とう!」と奮起する選手たち。

泣きたい時にはグランドで泣けと、
監督は教えてくれた〜♪
一部リーグを目指した私たちは、
無視されても殴られても耐えた、
耐えて耐えて耐え抜いた〜

日立高崎(現在のルネサス高崎。宇津木さんが監督に就任した当時は国内三部リーグの弱小チームだったが、就任二年目に一部へ昇格。今年で6年連続12回日本一)の選手たちが宴会で歌ったという、テレビドラマ「サインはV」の主題歌の替え歌からは、監督を信じ、自分を信じ、仲間を信じる選手たちの思いが伝わってきて、胸が詰まった。そして焦った。自分は果たして必死に生きてきただろうか。自分とどれだけ本気でぶつかってきただろうか。自分を信じ、人を信じるという意味を本当に知っているのだろうか、と。

宇津木さんや女子ソフトボール日本代表と並の人間を比べるのは、荒唐無稽な話かもしれない。だが、本書を読むと、監督も選手も「もがき苦しみながらも必死で闘っている一人の人間」であることが分かる。宇津木さん自身、選手時代は落ちこぼれで、高校から実業団に入るとき「お前はピッチャーの付録だ」と監督に言われ、「涙がグーッと沸いて」きたという。「あの言葉がなかったら今の私はなかった」と宇津木さんは振り返っているが、もしこの言葉を突きつけられたのが10年後だったとしたら、今の宇津木さんはいなかったかもしれない。一度出来上がってしまった人の行動や思考の「型」を変えるのは、そう簡単なことではないのである。

「若い時に読んでいたら・・・」。そんな負け惜しみめいた気持ちを抱く一方で、「自分だってまだやれるはずだ」という思いをかき立てられた。人生の良書、である(出版WEB担当・湯田)

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