松岡正剛『白川静−−漢字の世界観』

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白川静−−漢字の世界観(平凡社新書)
(平凡社新書、定価780円+税)文部科学大臣の諮問機関である文化審議会が、来年1月末に新しい常用漢字表の素案を策定するという。具体的な素案作りをしていた小委員会では、現在の1945字に何字を加えるかとか、「しんにゅう」の点表記をどうするかといった議論が交わされたようだが、それを報じた記事を読んで、当用漢字(のちに常用漢字と称される)に批判的であった、漢字研究の第一人者・白川静氏のことがふと思い出された。学界から異端視されながらも、独自の漢字研究を続け、漢字学に新たな境地を開いた白川静氏。

「漢字は形をもつ表意文字であり、その形は、漢字が成立した時代の人々の生きかたや考えかたを、具体的に示している。それぞれの文字は、その当初の形をなおもちつづけながら、みずからの素性を語りたいと欲しているようである」

著書『漢字』(岩波新書)のあとがきでこう記した白川は、「文字の素性」の探求に生涯を捧げ、字書三部作と言われる『字統』『字訓』『字通』(いずれも平凡社)にその成果を結実させたほか、文字にまつわる膨大な著作を遺した。この白川が築き上げた漢字の世界観を初めて紹介したのが、本書である。

著者の松岡正剛氏は、1970年代、思想やメディア、デザインの世界に衝撃を与えた伝説の雑誌『遊』(工作舎)の編集長。松岡氏は本書の中で、当時読んだ岩波新書の『漢字』(1970年刊)は「衝撃的な出会いとなった一冊」であり、「私自身はいつかこのような白川山脈に分けいって、そこにいくばくかの立て札を残してくる作業がまわってくるような気が、なんとなくしていた」と書いている。

松岡氏自身が言うように、本書は難解と言われる「白川学」について、白川の著書の一部を引用しながら「道案内」を試みた一冊である。冒頭の常用漢字の記事を読んだとき、真っ先に思い出したのは、松岡氏が『字書を作る』(平凡社)から引用した次の一文だった。

「漢字は中国で生まれたが、音訓両用に使いこなしたわが国では、それは同時に国字となった。国語と漢字と、この二つのものを習合し、融会したところに国語が成り、その思惟の世界も、表現の世界も、その中に生まれた。このふしぎな融会の姿の中に、わが国の文化の多くの秘密がある」

道案内役の松岡氏は、白川の根底にあったこの考え方についてこう綴っている。

「白川さんが言いたかったことは、日本人が漢字を自分たちの感覚や自然感や生活感情にあわせてつかいこなしてきたこと、そこから日本人独特の表現世界を生んできたこと、そのなかには世界を震撼させるような芸術表現がどんどん誕生していったこと」

常用漢字云々という矮小な話ではない、深遠な日本文化としての漢字の世界に触れさせてくれる一冊である。(出版WEB担当・湯田)

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