『奇跡のリンゴ 絶対不可能を覆した農家木村秋則の記録』(幻冬舎)

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奇跡のリンゴ(幻冬舎)
(石川拓治著/NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」制作班監修、幻冬舎、定価1300円+税)昨夏に刊行された『奇跡のリンゴ』が、ここに来てベストセラー入りを果たした。あゆみブックスの全店調査でもそうだが、出版流通最大手・トーハンの週刊ベストセラー(2009年1月14日トーハン調べ)でも「初登場」で20位にランクイン。ベストセラー入りは初めてだが、増刷に増刷を重ねて、昨年末にはなんと10刷に達している。

本書は、NHKドキュメンタリー番組「プロフェッショナル仕事の流儀」で2006年12月に放送された「りんごは愛で育てる」がもとになっている。放送に登場したりんご農家・木村秋則さんは、誰もが不可能だと思っていたりんごの無農薬栽培に成功した人物。りんごの無農薬栽培に賭けた木村さんの壮絶な生き様を、ノンフィクションライターの石川拓治氏が膨大な追加取材を行って書き記した半生記である。

無農薬栽培に取り憑かれた木村は、農薬の代わりに人間が食べる食品で害虫やカビを駆除しようと、黒胡椒、ニンニク、トウガラシ、酢、牛乳や小麦粉、米の澱粉など、台所のありとあらゆる食品を試した。が、りんごの木はまたたく間に虫の餌食となり、葉が落ち、花が咲かなくなり、枯れ木のようにやせ細って、800本もあった木が半分の400本にまで減った。そんな木村を、周囲の人々は「カマドケシ」(竈消し、家を潰し家族を路頭に迷わせる人間という意味)と呼んだ。

エズラ・ヴォーゲル著『ジャパン・アズ・ナンバーワン』がベストセラーとなり、バブルに向かって沸き立ち世間が消費を謳歌していた1980年代前半、木村の一家はお粥や雑草を食べて日々の飢えをしのいでいた。家族を苦しめているという苦悩と、枯れ山のようなりんご畑の姿は、次第に木村自身の心をも蝕んでいった。

無農薬栽培を始めてから6年目の夏。深夜、ロープを握りしめて山道を登る木村の姿があった。「だれにも見つからないところまで登って、そこで死のう」。そう決意した。そして、首を吊るロープを木に投げかけた直後、1本のりんごの木が木村の目に飛び込んできた。この木との出会いが、木村に生きる力を与えてくれたーー。

こうして紹介すると、お涙頂戴のドラマだと思われるかもしれない。確かに、りんごの無農薬栽培に「狂った」木村さんの半生はドラマに満ちあふれている。が、石川氏の温かいながらも抑えた文章運びが、短絡的なお涙頂戴話の、どこか鼻につくような、空々しさのようなものを感じさせない。取材を十分に積み上げ、丹念に文章を綴り、推敲を重ねたに違いない。著者ばかりでなく、担当編集者の「良い本にしたい」という思いも伝わってくる。それもこれも、木村さんの成せるわざ、だったのだろうか。

「ひとつのものに狂えば、いつか必ず答えに巡り合う」

それを実践したーー実践という言葉が軽く思えてしまうほど、壮絶であるーー木村さんの生き様に感銘を受けながらも、あまりに想像を絶していて、ずしんと重い問いかけを投げかけられたような、なのに、それが何か分からない、もやもやとした気分。これが、正直な読了感である。

「答えのない問題の答えを考え抜くこと。たとえば臨済宗の修行僧にとって、それは雑念に囚われず、心胆を練るための、重要な修業のひとつだ。彼らはそれを公案と呼ぶ。
リンゴは木村の公案だった。何年もの間、木村はリンゴの木の前で座禅を組んでいたようなものだ」

石川氏はこう書いている。そう言われてみると、本書そのものが木村さんが投げかけてきた公案(禅問答とも言う)なのではないかーーそんな気がしてならない。(出版WEB担当・湯田)

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