朝日新聞阪神支局襲撃事件「実行犯」手記の顛末

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週刊新潮2009年4月26日号(『週刊新潮4月23日号』、新潮社、税込320円)1987年5月3日に発生、真相解明に至らぬまま2002年3月に公訴時効を迎えた朝日新聞阪神支局襲撃事件。週刊新潮は、今年2月5日号で「真犯人」を名乗る島村征憲氏の手記を掲載、大きな話題を呼んだ。しかし、事件の当事者として、20年以上かけて徹底的な追跡取材を続けてきた朝日新聞は、週刊新潮の記事に猛反発。発行元の新潮社に質問状を二度にわたって送付するとともに、独自の検証記事を掲載するなど、週刊新潮との対決姿勢を明らかにした。

朝日新聞の執拗な追及に対し、週刊新潮側は「小誌の見解はすでに誌面に掲載しております」と、全面対決を避けてきたが、読者や同業他社からの批判の高まりを受け、ついに「手記が誤報であったことを素直に認め、お詫びする」検証記事を発表した。それが、本号130ページから139ページに掲載された、早川清編集長名義の記事「『週刊新潮』はこうして『ニセ実行犯』に騙された」である。

どのような内容かは、本誌を購入してじっくり読んでいただくことにして、このサイトでは、記事を深読みするための情報をいくつか提示しておきたい。

まず、記事タイトル「『週刊新潮』はこうして『ニセ実行犯』に騙された」の由来に触れておきたい。人によっては、事件関係者の気持ちを踏みにじる結果となった誤報を笑ってごまかすようなタイトルに怒りを感じた方がおられるかもしれないが、このタイトルを考え出したのはじつは週刊新潮編集部ではなく、ノンフィクション作家の佐野眞一さんである。

今年3月30日に東京・新橋にて開催された有志によるシンポジウム「『月刊現代』休刊とジャーナリズムの未来を考える」の壇上、佐野さんは週刊新潮編集部に対し、できるだけ早く誤報を認め、読者や関係者に対して真摯に謝罪することの必要性を説いたうえで、幾度転んでもめげずに社会と向かい合ってきた同編集部の不屈の精神と歴史に倣って、「『週刊新潮』はこうして騙された、といった記事を掲載すればいい」と発言していた。

もちろん、佐野さんの発言の本旨は、週刊新潮による徹底的な自己反省と、読者や関係者に対する新潮社からの謝罪を前提としたものである。しかし、「ミスリードによって結果的に誤報となったことはお詫びするしかないが、報道機関が誤報から100%免れることは不可能と言える」といった早川編集長の表現をみると、「こうして『ニセ実行犯』に騙された」なるタイトルは、佐野さんの週刊新潮に対する厳しくも温かい期待を裏切ったとしか言いようがなく、不屈の精神どころか単なる開き直りとしか感じられない。

佐野さんは週刊新潮の検証記事発表後、「j-castニュース」の取材に対し、「虚報の責任という意味では新潮が『実行犯』であると言っても過言ではない。謝罪記事のタイトルも『週刊新潮はこうしてニセ実行犯と共謀して読者を騙した』というほうが正しかったのでは」とまで語り、落胆の色を露わにしている。

それにしても、今回の週刊新潮vs.朝日新聞、週刊文春など他のマスコミ、という珍妙な四面楚歌の構図を、読者の方々は興味深く見守っていてくれたのだろうか。マスコミが勝手に騒いだだけで、読者はさほど興味がない、なんてことがありはしないだろうか。

40代前後より若い一般読者は、おそらく襲撃事件当時のことを記憶していないだろう。事件をよく記憶していて、その続報を気にしていたという方々であっても、週刊新潮の記事を一通り読んだだけで「これは眉唾だろう、誤報だろう」と判断し、週刊新潮がどんな態度に出るのか興味深く見守っていた、という熱心な読者はそう多くないのではないか。

いっぽう、手記の第二報が掲載されたあたりで、マスコミ関係者の多くはこの記事が誤報に違いないことを確信していた(ようだ)。緻密な取材を重ねてきた当事者の朝日新聞はもちろん、週刊誌やテレビ報道番組の関係者の多くの関心は、かなり早い段階で「早川編集長はこの記事のオトシマエをどうつけるのか」という点に集中していた。読者の方々は、こういった水面下の動きを知りえないわけだから、週刊新潮の手記掲載がどれほど異常な判断だったか、関係者と同じようには理解できないはずである。だからおそらく、マスコミどうしが互いに大きな誌面を割いて論争を展開する構図についても、関係者ほどには興味を持てなかっただろう。

一連の誤報事件がもたらしたのは、『週刊新潮』の取材がいかに杜撰なものだったか、謝罪がいかに中途半端だったか、といったことではありはしない。むしろ、週刊誌や新聞が一生懸命になって追及している問題の重要性や論点を、読者に十分に伝え切れていないこと、また、そういう問題の重要性や論点を伝えるための手法が、十分に読者のために研究し尽くされていないこと、そういう根本的な事実が白日の下にさらされた誤報事件であったように思うのである。(WEB担当/川村)

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