『渋谷ではたらく社長の告白』の著者であり、インターネット広告代理店最大手サイバーエージェントの社長である藤田晋さん(36)は、新聞大手五紙とスポーツ新聞には毎日必ず目を通すそうです。
「近ごろの日本人は新聞を読まない」と言われるようになってもう久しいのですが、それでも、新聞には今日も読む人の数とは無関係に、たくさんの有益な情報が詰め込まれています。たとえば朝日新聞だと、国内外2500人の記者が毎日の取材にあたっています。テレビ番組表や株価情報、広告を除くと、20面にも満たないほどの紙面に、それだけ大量の人的資源が投入されているわけですから、まあ、充実して然りといったところかもしれません。サイバーエージェントの藤田さんも、そのような情報媒体としての価値をよく理解しているからこそ、多忙のために限りある時間のうち少なからぬ部分を、新聞を読むことに使うのでしょう。
さて、わたしたち書店スタッフにとっても、新聞は不可欠の情報ツールです。日曜日の書評があるから? もちろん、書評に掲載された本を買い求めるお客さまは非常にたくさんいらっしゃいますから、書評チェックは欠かせません。でも、わたしたちが書評と同じくらい、もしかしたらそれ以上に重要視しているのは、出版社の広告なんです。
たしかに、書店スタッフは、各出版社の営業担当者さんや販売会社の担当者さんとは日々細かな情報交換をしています。しかし、じっさいに本をつくっている現場の編集者の方々や、編集者と意見交換しながらより多くの方々に本を読んでもらおうと策を練る宣伝担当の方々からの直接情報は、じつは書店スタッフといえどもなかなか得がたいものがあるのです。
出版社がある本をどういうイメージで売りたいのか、(わたしたちの書店以外で本を購入している)読者の方々はそれに対してどう反応しているのか、さらに、世の中のトレンドはどうなっているのか・・・そういった有益な情報が、広告にはいっぱい詰め込まれています。
この連載では、広告に詰め込まれた情報を丹念に探りながら、いまどんな本が読まれているのか、これからどんなを読んだらおもしろいのか、ベストセラーの影に隠れて埋もれてしまいそうなオススメ本の発掘も兼ねながら、毎回少しずつではありますが、みなさんにご紹介していきます。情報量は膨大ですから、当初は、ここ数年もっとも真剣に紙面改革に取り組んでいると思われる、発行部数およそ800万部の朝日新聞にターゲットを絞ることにしましょう。
5月28日、2面記事下全5段は平凡社さん。現代日本を代表する人気作家・五木寛之さんと医学博士・帯津良一さんの対談本『生きる勇気 死ぬ元気』が目につきますが、わたしたち書店スタッフがそれより気にしているのは、広告左隅にやや小さめに紹介してあるように、最近「平凡社新書」が創刊10周年を機に装丁をリニューアルしたことです。
同じ新書部門では、かつて岩波新書(岩波書店)、中公新書(中央公論新社)と並んで御三家と呼ばれた講談社現代新書が、5年前の創刊40周年を機にデザインをリニューアルしていますが、それまでの杉浦康平さんのデザインが高く評価されていただけに、「なぜ変えた?」と、業界内外からの不評を買った経緯があります。講談社はその後、2007年に『生物と無生物のあいだ』(福岡伸一著)という大ベストセラーを世に送り出し、そのおかげかデザインの不評はとりあえず沈静化したようです・・・とにかく新書のデザイン変更はそのくらいにリスクが大きいのです。
平凡社さんの決断は、上に挙げた講談社さんの先例をふまえてのことですから、おそらく新書の現在に満足していないという平凡社さんの強い意思表明なのでしょう。新刊同時10点発売の内容は、「春画」「ロスジェネ」「日本語」「マルクス」「吉本隆明」「罪と罰」など、いずれも最近ベストセラーになった本と関わりの深いキーワードを中心とした、いわゆる「売れ筋」路線ですが・・・読者の方々はどうお感じになられたでしょうか。これを機に新書のデザインにも注目してみてください。
さて、3面記事下半5段は三笠書房さん。なんだか景気が良さそうですね。まず、京セラ名誉会長・稲盛和夫さんの『働き方』が「たちまち10万部突破!!」。『稲森和夫の実学』『生き方』などに続き、またもベストセラーみたいです。日本経済新聞出版社、サンマーク出版、そして三笠書房と、稲盛さんはいまやビジネス啓発本分野における五木寛之さんのような存在です。「この1行、1行はまさに『啓示』だ!」との煽り文句、本当かどうかためしに読んでみたくなりますよね。
同じ三笠書房さんの『「体を温める」と病気は必ず治る』は82刷と驚異の増刷ぶり。タイトルはあくまでタイトルですからいちいち真に受けても仕方ありませんが、今週のベストセラー(あゆみブックス調べ)には偶然なのか、『体温を上げると健康になる』(斎藤真嗣、サンマーク出版)がランクインしており、体温上昇療法(?)少し気になります。
最後に、5面記事下全5段の東洋経済新報社さん。『達者でポックリ。』は、すでにご紹介した平凡社さんの新刊で五木寛之さんと対談している医学博士・帯津良一さんの著書。こちらは「大反響9刷!」とか。
28日の新聞広告は女性誌の発売日ということで、『MORE』(集英社)『エル・ジャポン』(アシェット婦人画報社)『CLASSY』(光文社)などが他面の全5段を占めましたが、それ以外は上に書いたように、壮年老年向けの「死に方」や「健康法」が目立つ内容でした。出版社は(不況のためにいつになく)少なく限られた広告宣伝費用を、壮年老年読者の獲得に傾注している、と考えたらいいのでしょうか。それはなぜなんでしょう。これからしばらくこんな感じで広告に注目してみたいと思います。





















